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遠きウルダハ

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キャンプ・ブルーフォグからウルダハへ、駆けた。
赤には五名の従者が付いていたが、黒にはララが一人居るだけだ。
フレンドだというが、自称弟子らしい。

黒は、黙々とマウントを進めてきた。赤と喋るのも野営の時ぐらいで、それも言葉数は少なかった。
同じキャスとして、あまり似たところは感じられなかった。
キャスの中では、かなり冷淡だ。野望も胸に秘めている。赤には、そう感じられたのだ。
まだ若い、ナイトと同じくらいの年齢だろうか。しかし、圧倒してくるようなDPSを、全身に漲らせていた。
ナイトに、それはない。侍に感じるものに似ていた。

ウルダハまで、15マルムほどの道のりである。野営をしながら進んだ。
赤は、野営にあまり慣れていなかったが、黒は屋根がないことを気にしているようではなかった。
焚き火のやり方など、従者たちよりも手際が良かった。
冬は明け始めている。それでも夜になると、流石に冷えた。思わず、焚き火に手を翳したくなるほどだ。
「静かですね、これからの戦で、どれほどの人が死ぬか分からないというのに」
焚き火を挟んで黒と向かい合い、赤は言った。
本当は別の事を言いたかったが、じっと火を見つめている黒の前では、そんな言葉しか出てこなかった。
「侍殿とは、どういう方です、赤殿?」
「当代きってのDPSだと、私は考えていますよ。忍者様と二人で組まれたら、レイドの情勢はまるで違うものになっていた、と思います」
「ナイト様とは、あまり合わないのですか?」
「とんでもない。わが主は、侍殿に対していい感情をお持ちです。戦士殿と違って、周囲をまず援護していくという、堅実なお方ですが、侍殿はそれをしっかりと補佐してこられた」
「DPSは、出せればいいものではない。固定の力がまとまりにあることを、確かにナイト様は証明しておられます。しかし、召喚もそれをよく知っている」
「召喚が強大すぎる。それは、わが固定でもヒーラーを中心にして根強く主張されています。ここで、便宜上の降伏をすべきではないかとね」

黒の表情は全く動かなかった。赤の固定の中にある降伏論は、まったく気にしていないようだ。
それとも、ただそう装っているだけなのか。
黒というジョブの肚の内が、二日一緒に旅をしても、赤には読み切れていなかった。
これまでの黒の動きを見ていると、戦術としては頷けないものが、数多くある。
第一、妖星乱舞をこなしながら攻撃することは、どう考えてみても無謀だった。
更に深く考えると、召喚を目立たせるようにしむけた、とも思える。フォーラムを囮にしてだ。
しかし、そんなことがあるだろうか。

圧倒的スペック差で環境に攻め込んだ召喚に対して、闘う姿勢を示したのは、黒だけだった。
しかし、召喚が環境を制したいま、黒はほとんど損害を受けず、マイナー層を加えて人口だけはそれなりに落ち着いている。
そして環境の頂点を難なく奪った召喚は、レイドの全キャス枠を掌握することになった。
召喚がキャス枠を掌握した事で、ワールドファーストは必至だろうと赤は思ったのだ。

召喚は、スペック差を見せつけながらも、まだ戦をしていないに等しい。
キャス最強の座を難なく召喚に奪らせたのは、赤を攻めさせるためだったと考えられないか。
単独で召喚に対抗するより、赤と結んで闘うという発想が、黒にははじめからあったのではないか。
それを、このララフェルが考えたというのか。
3層にガーディアンがいたので、赤も侍も、そしてナイトも、環境の動きは注意深く見守っていた。
黒が、環境最底辺に駐屯して、4年である。木人DPSが高いのは分かっていたが、不遇であった。
召喚でいい。という立ち位置も変わっていなかった。

このララフェルは、違うジョブを見ているような思いがする
「ひとつ、伺ってもよろしいかな、黒殿?」
思い切って、赤は言った。
「なんなりと」
「妖星乱舞を、どうこなされます?」
「第一に、黒では詠唱を完了できないと考えました。三連魔を用いたとしても、難しいものがあったでしょう。詠唱していたら、DoT床を踏んでいたかもしれません。それで、妖星乱舞前に三連魔が回ってきたらすぐ使うようにしたのです。そこで使えばトラインには帰ってきますし、そうなれば失ったDPSを取り戻す事も出来ます」
「なるほど」
「次に、南へ行き頭割りをします。それもエーテリアルステップを使えば、DPSの損失を最小限にする事が出来るでしょう。南には、ヒラもタンクも居るのですから。いかにシビアなタイミングとはいえ、余裕のあるヒラタンクに声をかけ、位置取りをしてもらう事は出来たかもしれません」
「しかし、そんな事を言えば消滅の脚が失敗してしまうのでは?」
「そうなることも、考えていました。なので今まで通り、無理は言わずひたすら走り、ヒラタンクと合流し、頭割りをこなした後にアドルを入れ、定位置に付いたという訳です。走る時、500のDPSを無駄にした、その責めはPTではなく、この黒にあります」
「失った500は、その後取り返すつもりだったのですか?」
「動き続けるギミックではなく、最小限でいいというなら、黒でもDPSは出せます。運営はそれを警戒して、どのレイドでも黒に対してのみ、効果的なギミックを多数用意しているのでしょう。驚くべき嫌がらせです」
嘘を言っているわけではない。しかし、全てが本当だとも言い切れない、と赤は思った。
召喚が強いと思い込ませようとしているのではないか、拭いきれない思いだが、さすがに訊くことはできなかった。

もし自分が考えたとおりなら、この大きな戦は、黒が思い描いたとおりの始まり方をしていると言っていい。
とてつもないララと向かい合っている、という漠然とした思いは会った時からずっと続いていた。
それをどう扱えばいいか、赤はわからずにいる。
「わが主と会って、黒殿は対等の同盟を求められますか?」
「別に、求めはいたしません。同盟すべき者が会う、ただそれだけのことです」
ナイトは4.xの覇者タンクだった。それと較べて、黒は最底辺ジョブである。確かに名は知られているが、名ばかりに過ぎなかった。
「わが主が、すでに召喚との講和を決めていたら?」
「すでに天下が決したという事です。赤も、黒同様闘わずして敗れるわけですから」
「私は講和と言ったのです。降伏と言ったのではありません」
「召喚は野良からPT募集まで制し、いま環境の頂点も手中にしました。赤だけでどういう講和があるというのです。講和、すなわち降伏ではありませんか」
「そうとも言い切れますまい。講和で時を稼ぐ。その間に、もっとフォーラムでゴネる。そういう方法もある、と固定の方々は主張しています」
「いま、赤がもっとも困るのは、召喚が地位を固め、しっかりと腰を据えてしまう事ではないのですか?」

確かに黒の言うとおりだ、と赤は思っていた。召喚が地位を固めれば、キャス人口は召喚に傾く。
すでに周りの赤は着替え始めているのだ。すると、調整を求める声も小さくなる。いまより、ずっと情勢は厳しいと考えざるを得なかった。
いまなら、キャス格差が完全に決まったとは言えない。黒がいるのだ。████1位のララもいる。
つまり、黒と結ぶ事で、赤は孤立を回避できる。そしてキャス人口が、極端に偏ることもないだろう。
方方の固定を召喚が制してはいないというかたちを、環境最底辺の黒と赤が結ぶことで、作り上げることができるのだ。
召喚が腰を据えないうちに、戦を始めなければならない。すべては、そんなふうに動いている。
どこまでが、このララが思い描いていることなのか、と赤は思った。

「黒殿は、どこでスキル回しを学ばれました?」
「野良で色々と試しはしましたが、本気で考えるようになったのは、固定に入ってからです」
かすかに、黒が笑ったようだった。
黙々とマウントを進めてきたが、今夜は黒はよく喋った。多い言葉が、また底知れない威圧感を赤に与えた。
「なぜ、固定に入られたのです?」
訊くと、黒はまたほほえんだ。まったり固定に入らずとも、ガチ固定で、名声をほしいままにすればよいではないか。
その思いは、会った時からずっと抱いていた。まったり固定では、早期攻略も、絶攻略もままならない。
「まったり固定は、黒殿を動かす、なにをお持ちだったのですか?」
「さあ。力はお持ちではない。したがって、名声もない。他にはない、軍略もお持ちではない。方針は、あまり変わりませんから。確かに雰囲気はまったりですが、それはこの固定だけが持っている特徴でもありません」
「しかし、その固定で続けてこられた」
「なんとなく、ですかね」
「なるほど。なんとなく、ということが人にはありますな」
「最速攻略をするというような、小さい目標ではなく、この固定の1年先、2年先を見据えた考えということになりますか」
「最速攻略をするという目標が、小さい?」
「私は、そう思っています」
「1年先、2年先ですか」
「メンバーは、変わりますがね」
「そういう考えは、夢のようなものだと、私には思えますが」
「そう、夢ですね」

黒の澄んだ小さい瞳が、赤を見つめてきた。不意に、わけのわからない戸惑いに襲われ、赤は目を伏せた。
自分とは違う、他とも、違う。いままで出会った、誰とも違う。それをどう扱えばいいか、赤には分からなかった。
「明日はウルダハです、黒殿。ギルドマスターもお待ちでございましょう」
「呪術師ギルドに、寄るつもりはありません」
無表情に、黒が言った。
「私は黒魔道士として、ナイト様にお目にかかり、同盟の約定を確認しなければなりません。そのあとは、DPSとして、レイドに備えるだけです」
「そうですか」
「今気になるのは、侍がどう強化されるのかだけです」
「侍殿は、PTのDPSをほとんど稼いでおられた。だからこそ、自分の闘い方を貫こうとされるでしょう。それでいいのだ、と私は思っています。勝利も敗北も、実はヒラタンクのものではなく、DPSのものです。それほどに、突き詰めれば難しいロールだと、私は思っています」
「忘れません、いま赤殿が言われたことは」
「とにかく、明日はもうウルダハです。侍殿はクガネに駐屯中でおられません。まずナイト様にお会いになることになります」

炎を見つめていた黒が、ほほえみ、かすかに頷いたようだった。
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