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小話: 影を咲く

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「あぁ……いい月夜だねぇ」
 見慣れた、見飽きた夜空にふとヨツユは小さく呟いた。
 別の部屋ではちょうど客を招いているのだろう、遠く小さく甲高い嬌声やら楽の音やらが響いてくる。普段ならばヨツユも同じように部屋で客を取り、接客という建前で適当にあしらい抱かれているところだが、今夜は珍しくぽっかりと予定が空いてしまっていた。
 おかげでひとり、飲みたくもない酒を手酌で煽りながら、睡魔が訪れるのをただ無意味に待っている。酒に弱ければ手っ取り早く眠れたものを、中途半端に飲み慣れてしまったせいか、忌々しいことにどうにも酔いにくい性質(たち)になってしまった。
 夜の闇は嫌いだ。けれど、鮮やかな昼の光はもっと嫌いだった。
 そう考えると、これぐらいがちょうどいいのだろう。耳が痛くなるほどの静寂ではなく、眉をひそめるほどの喧騒でもない、これぐらいが。
「……『月夜』ですか」
 ヨツユの零れ落ちた独り言に、部屋の隅でひっそりと手習いの復習を行っていた少女が小首をかしげた。無駄口をたたかない大人しい性格ということもあり、ヨツユとは間違っても雑談などするような間柄ではないのだが、よほど意外だったらしい。
 確かに、今宵は新月。わずかに開け放たれた窓から見上げる空は群青の帳にクリスタルを砕いた星々が煌めいている。あと半月もすれば、今はか細くすら浮かんでいない月が肥え太り、うっとうしいほどに眩い白光をこれでもかと撒き散らしてくれるはずだ。
 ドマでは「秋口の満月はことのほかくっきりと美しく見える」とは言われているものの、新月となれば季節関係なく『良い』とは言われることはないだろう。
「人間なんてバカばっかりだからね。わかりやすい、小綺麗なものばかりを有難がる。けれどね、よおく考えてごらんよ」
 僅かに唇の端をゆがめて、ヨツユはふわりと窓の外を指さした。子どもの頃のアカギレだらけだった指とは違う、爪の先まで整えられた指だ。もはや労働に従事することは無く、重い物を持つことも無い。楽を奏で、ただ男を慰めるための指。
 何もかもが変わってしまって――けれども変わらないものは、確かにある。
「輝いていても、影に隠れて見えなくなっていても、月は確かに『其処に在る』んだ。なら……いい月夜だろう?」
 たとえ薄い影のようにしか見えなくても、夜ごと変わらず、月は浮かんでいる。かつての自分のように、見えなくても確かに存在しているのだ。褒め称える者が居なくても、関係なく『月』は在る。
「……難しいです」
 困ったように眉根を下げた少女に、そうかい、と短く返して、ヨツユは再び酒を煽る。この話はこれで終わりと正しく読み取った少女も、再び手習いの手本へと視線を落とす。
(あぁそうさ、見えなくても『在る』。それはあたしも同じさ)
 仄かな嗤いを滲ませて、ヨツユは淡々と酒を飲む。そうだ、たとえドマの民が忘れても、無かったことにしても、自分は決して死ぬまで忘れやしないだろう。
 踏みにじられた痛みを、助けを求めることさえ許されなかった悲嘆を、尽きることのない憎悪を。

 無かったことになど、してやるものか。


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#エオルゼア版深夜の創作60分一本勝負
お題【ヨツユ(NPC)】【お月見】
9/11 0:35~1:30(-5min)
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