ウルダハを出てどのくらい歩いただろう……。 辺りも随分暗くなっていて寒い。なんとかキャンプ・ドライボーンまで来た。
息が切れる
足が軋む
痛い
靴の底が抜けて靴の中に乾いた砂が入ってくる。もう歩けない……。
俺はその場に座り込んでしまった。座った途端に足だけじゃなく体中にさっきよりもずっと強い痛みが襲ってきた。もう立てない。
呼吸がだいぶ楽になった頃、俺はふと空を見上げた。
そこには満天の星空が広がっていた。一つ一つ大きさや色が違っていてそれが無数に散りばめられている。その星の海の中に、自分がこの中で一番なんだ! と言わんばかりに大きくて綺麗な三日月がいた。
そういえばこんなに空をじっくり見たことなんて無かった。外にいるときはほとんど下を向いていたから。
俺をいつも殴って、罵声を浴びせる。そんなお父さんのいる家に帰る道のり。あともう少しで家に着いてしまう。帰ったらまた殴られるのかな……。そんなことを考えて下を見ながら、家までの距離が分からないようにわざと同じ所をぐるぐる歩いた。
でも、もういいんだ。ここにはお父さんはいないから。
「君、大丈夫?」
俺はびっくりして空から目を離して声の聞こえた方を見ると、そこにはムーンキーパーの女性が立っていた。赤髪で顔に特徴のある刺青をしている。足が悪いのだろうか、右手で木の杖をついている。
俺は動揺して返答とは言えないことを言った。
「いや……別に」
女性は質問を続けた。
「名前は?」
「――ノア」
「ノア君か、私はイザベルよろしくね」
イザベルはそう言うとニコッと微笑んだ。そしてまた質問してきた。
「お腹すいてない?」
「いや……別に大丈……」
そこまで言いかけたときに俺のお腹がぐぅっと鳴った。
イザベルは少し真剣な顔で言った。
「そんなボロボロな格好で大丈夫って言われても説得力ないし、ほっとけないよ。ご飯を食べるだけ……ね?」
「うん」
「よし決まり!」
イザベルはそう言うと俺の手を引いてひょこひょこと歩き出した。