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レオニア王国記 EPILOGUE Ⅲ<最終回>

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Read more>>『レオニア王国記』とは?(LSマスターLuisSera日記に飛びます)

                    

ブラマールさん作のレオニア王国記 本編
第一期 最終話『それぞれの結末と王子の旅立ち』
から続くエピローグ三連作、そのⅢ。エピローグ最終回です。


  Ⅰ.EPILOGUE 序章 レオニダス作
  Ⅱ.SIDE:ルイスとマテウス マテウス作

▷Ⅲ.SIDE:ルイスとレオニダス 

                     




***

 王家暗殺未遂の咎を受け、レオニアの王都ツインレオ城の地下牢へ投獄されていたルイスの元へマテウス王子が訪れ、ルイスを騎士に任命したことで数日ののちに釈放が叶う身となった。

 石造りのベッドだけだった独房には、簡素であるが机、椅子、書類仕事が持ち込まれ、それからマテウス王子が選んだのだろう、ルイスがつけていた手記と似た装丁のまっさらな手帳───元のものは証拠品として押収され、手元に返ることはないだろう───と、素朴な風景の入った絵本が差し入れされた。

 牢の外を思い、挿絵の、ともすればなんの意味もないような草原と青空を眺めれば、このような本は王となる者には邪魔なだけだと、マテウス王子が子どもの頃持ち寄った本を焼き捨てさえした日がよぎる。
 こうして育まれた情の深さ、優しさこそが王子の強さであり、それに救われたのだと、今になってようやく思い至る自分がひどく恥ずかしい。


 繰り返しの尋問に今度こそ偽りなく答え、ルイスが持ち得た全ての情報を明け渡す。そうして一週間を過ごし、牢番から、夕食の配給と共に、明日か明後日には解放されるだろうと言伝のあった夜。
 
 定時から外れた時刻に階段を上がった番兵が降りて来ず、しばらくして代わりに悠然と石階段を蹴る金属の靴音を響かせ近づいてくる者に、ルイスは椅子から立ち上がった。このフロアには現在ルイスしかいない。独房に許された景色である、鉄格子とその向こうに見える石壁の間へ、ランタンを掲げたその姿が挟まる前に、ルイスは跪いてレオニダス王を迎えた。

「王家暗殺を諮ったという大罪に際してこの度の恩赦、身に余る幸甚にて――…」

「ああ、もういい。分かっている。形式の手続きは全て書面で済ませた通り。少し腹を割って話そうじゃないか」

 ルイスの口上を遮った王は、もう片手に持ってきた酒瓶、一対のワイングラスを床に置き、自分も牢の石畳に胡坐をかいた。意表を突かれたルイスは、おかしな趣向を訝しみつつも、王の酔狂は今に始まったことではないと、どこか冷静だ。倣って座り直し、格子を挟んで向かい合う。レオニダス王が酒瓶のコルクを開けてグラスにルビー色の液体を注ぎ、グラスを差し出した。

「出所祝いだ。美味いぞ────毒味済みだ」

 葡萄酒はもちろん、アルザ王子へ昏睡薬を用いた媒体であり、仕返しとばかりニヤリと笑みを浮かべる王の性悪さへ、さすがのルイスも顔を顰める。とはいえこの場で断るわけにはいかず、格子をギリギリ通るグラスを受け取り、お互い目くばせの乾杯をしてほぼ同時に葡萄酒を口にした。薔薇を思わせる崇高な香りが鼻をくすぐる。

 ワインを減らしながら、レオニダス王もこの場をどう切り出すのか考えあぐねているようだ。しばらくランタンの炎が揺らぐ様を眺めていたかと思えば、ぽつりと口を開いた。

「出会った時のことを覚えているか」

 答えるまでもない。あの頃ルイスは、半ば人質のようにこの国へ嫁いだローザ姫につき従いレオニアを訪れ──最初は姫の用事を仰せつかった城下町で、それと知らず、この、人を食ってかかったような男と、そして町娘であったイルミナと出会った。

 あれからもう二十年が過ぎた。その間に起こったことは山ほどありすぎて。今更何を聞きたがっているのか、そもそもこの問答に何の意味があるのか。ルイスは語る言葉を持たず、沈黙が続いた。


「……。」

「言葉などもはや意味を成さないな」

 苦笑し、空にしたグラスを再び床に置いたレオニダスは、ルイスとローザを国へ迎え入れたのと同じ二十年前からほとんど外したことがない、力を制御するための枷である指輪を外し、無言で手を差し伸べた。

 その意図するところに気づいたルイスはわずかに口を歪めながらも、仕方ないといった様子でそれに触れ、目を閉じた。




 ────大聖堂の鐘が鳴る。

 
 荘厳な空気と、白く輝く花嫁のドレス、白壁と対比して網膜に焼き付くほどに鮮やかなレオニア・ブルーの装飾。これはレオニアとタイガルドを結ぶ和平の象徴たる、レオニダス王とローザ姫の婚姻式のヴィジョンだ。
 宣誓のために重ねたローザの手が緊張し、震えている。強く握ると、ヴェールに彩られて頬から上は見えないが、固くひき結ばれていた唇が安心したように微笑んださまは、眩い宝石のようだった。


 ───これは即ち、ルイスにとって唯一絶対であった偶像を玉座へと見送った日のことだ。あまりに青く、若く…まぶしい。

「王はご存知ないのでしょうが私も末席におりました。ローザ様の晴れ姿を目にするにはいささか物足りない席でしたので───私などには勿体ない、素晴らしい映像をありがとうございます」

 なるべく嫌味たっぷりに礼を伝えたが、レオニダスは目を伏せたままふっと笑うだけだった。続きがあるのだろう、ルイスも再び目を閉じる。



 城の窓から、彼は誰の明空が覗く。
 手元に視線を落とせば、夜通し夫の非を責めたローザ妃がようやく落ち着き、腕の中で顔を伏せている。レオニアとタイガルドの違い。愛情表現の違い。孤独にさせた、至らない部分も多かった。それでも手探りで国と国を結ぶための要になろうと、共に努めた日々。


 あの奥ゆかしく物静かなローザも、そのように意固地になり、夫とはいえ他人に喚くなんて一面を持っていたのだと知り、驚きはするが、全く面白くない。

「……言い訳ですか?自分は精一杯やったのだと……ローザ様亡きあとになって私に申し開きしようが、見苦しいだけにも思いますが」

「手厳しいな。どうすればお前の誤解が解けるかと思ってね」

 目を閉じたままのレオニダスが、痛いところを突かれたか、今度は本心からであろう苦い微笑みを深めたのを見て、少しだけルイスの胸がすいた。



 こんなものは見せられずともわかっているのだ。
 全て、愚かな───ローザ様を幸せに導くことなど叶わない身の上で、ただ見守るしかできなかった無力で愚かな自分が、道化に狂っただけなのだと。

 マテウス王子も、この男も、狂人の行いを糺す権利を持ちながら、それが振るわれないことがもどかしく腹立たしいなどという考えこそが、ただの甘えであることも。

 それが歯痒く、面白くなくてまた、踊ってしまうのだ。


 ワインの香が残る息を注いで、ルイスもやり返すために念を紡ぐ。

 ごく最近の映像ならばルイスから送ることもできるはずだ。

 思い浮かべたのは、差し入れの絵本に挟まれたマテウスからの手紙。



────”母上は父上をちゃんと愛していたし、父上のこともイルミナ母さんのことも恨んでいない。病気で、納得して死んだんだ。それなのにルイスが信じてくれないことだけが心残りだった”


 勝手に見せたと知れば怒るかもしれない。しかし、この頑固な親子を納得させるには論より証拠しかない。でなければこの先いつまで惚気たヴィジョンや家族愛を見せつけ証明してこられるのか。ルイスにしてみればたまったものではないが────ああ、それが。


 ヴィジョンで流れ込んだマテウスの手紙を読み、レオニダスは一度手を離して「まいったな」と照れ臭そうに独りごちた。それをどこか腑に落ちた眼差しで静かに眺める。やがてレオニダスも何かに思い至ったか、厭に朗らかな顔で手招いた。

「じゃあ、最後だ。もう一度」



 ────赤子の泣く声がする。

 吉報の伝令を追い抜いて、ローザの寝室に続く長い石廊を足早に進む。

 扉をくぐれば、朝日が差し込む寝台へ、出産で汗に濡れ、やつれながらも愛おしそうに赤子を抱くローザの姿。

「あなた、男の子ですよ。きっとあなたに似て、優しく素晴らしい王になります」

 見つめるその微笑みは、まるで黎明に煌めく花のように美しく、紛うことない幸せに満ちていた。




「愛していたよ」

 それは祈りにも似た、誰に届くはずもない告解だ。

「────……」

 ヴィジョンを見終わったルイスは、目を伏せたまま手を引くと、ふっと憂いたように笑う。

「…なんだ?」

 まだ不満があるのかと焦れたレオニダスが先を問うものの、ルイスは答えない。おそらく神妙な顔で見ているだろう王の視線を受けながら、胸の奥で芽吹いた醜い感情を核に、すっかり凍りついて異形の塊と化したそれを見つめ直す。


 本当はとうに分かっていた。

 ローザ様が国と国の平和に報いようと、心からこの男を愛することで女王として立派に一生を遂げられたこと。蔑ろにされてなどいない。


”ルイス。マテウスをお願いね”

 レオニダス王不在の中、今際の際に受け取った、ローザ妃の悲願。


 ────二十年。私に思い出せるのはもう、あの方の最期になってしまった悲しい微笑みや憂い顔ばかりだというのに……そうだ、私の愛したローザ様はこうも美しく、お優しく……この男の中では───今も眩しいほど、笑っておられるのだな。


 ローザの無念を晴らすという名目がいかに自分の思い上がりであり独りよがりなものであったかと改めて思い知る。ああ、そうだ。あまりに未熟で、不甲斐ないこの身を晒して生き直せと命じられたことこそが、罰であり贖罪なのだろう。



 押し黙ったままのルイスがやがて幽かな笑み湛えるさまを見て、レオニダスも少し驚く。

 そういえばこの男の笑い顔など、ローザを弔ってからついぞ見たことがない。

 人が心を閉ざし過ごす二十年は、あまりにも長すぎた。

 レオニダスには、ローザの忘れ形見となったマテウスだけでなく、イルミナもアルザも、王と慕ってくれる臣下、民までもがいた。

 それを間近で眺めながら、ローザを見送り、レオニアの地にたった一人となったルイス。いくら元来が鉄面皮とはいえ、その奥で、誰に打ち明けることもできず亡霊と後悔に苦しめられていたことに同情を抱く。

 ゆっくりとルイスの瞼が開き、薄氷が張ったような少し左右で色の違う瞳が覗いて、ようやく視線が交わされる。レオニダス王が口を開いた。

「わざわざ偽物の毒薬を用意して俺を煽るなんて、手の込んだ真似をしてくれたものだ。刺し違えてでも自分だけ楽になるつもりだったのだろうがそうはいかない。ここを出たら、牢は平和だったと戻りたくなるほど働いてもらうからな。お前のせいで方々大混乱だよ。覚悟しておけ」

 半分笑いながらやれやれと皮肉れば、それを受けたルイスはやっと、長年固まりきっていた自身の頬が緩んでいることに気づいたようだ。

 己に発したその機微すら気取られぬよう、すっと真顔に返る癖はそのままに、二人はまっすぐ目を合わせた。


「…承知いたしました」







  ーレオニア王国記 第一期 Fin.ー  



(20210608初掲)
                    

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完結済みのレオニダス著 レオニアサイドストーリー:

レオニア王国記 前日譚
タイガルドから、元敵国へ輿入れとなったローザ姫に付き従う、宰相の若き日──ルイスの物語。

レオニア王国記 よみびとしらず
本編より遡ること20年前。レオニアは未だ戦争の渦中にあった。王子であったレオニダスの
ある出会いの話。


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